長いお別れ−アイとノゾミの最後のストーリー−

―「お待たせ」。そう言って現れたアイはもうノゾミの知っているあのアイボンではなかった。
「またやっちゃった」口を歪めて笑うアイ。自嘲とも悪ぶったともとれる複雑な笑い。
「どうして?どうしてなの?」言いたいことは山ほどあった。だがノゾミには振り絞るようにそれしか言うことはできなかった。
「・・・・・それが私のクセなのかもね」しばしの沈黙のあとアイの答えは古い歌謡曲の一節のようだった。
グループ卒業のあとふたりで組んだユニット。「双子じゃないのに双子みたい」。そんなキャッチコピーでまるで本当の姉妹のように一心同体だと感じていたふたり。「最高のパートナーって?」MCのタカさんに聞かれてふたりしてお互いを指差し「このひとー!!!」と叫んだあの日。あれからどれだけの時が経ったろう。時がふたりをもとの赤の他人に戻してしまったのだろうか。
「堕ちるところまで堕ちちゃったわね」そう呟くアイ。
「これからどうするの?」大粒の涙がノゾミの頬を伝う。
「まだ一緒にやれるなら、私も事務所をやめる!」
「ダメよ・・・・・のんは私がいなくてもひとりで充分やっていける」
「・・・・・・あ、あの人のところへ、行くの?」
「行けないわ。だって彼はもう・・・・・・」
その時ひとりの初老の男が店に入ってきた。アイに近づくと「そろそろ時間だよ」
「ありがとう。待ってくれて」
「言いたいことは言えたかね?]
「ハイ」
アイは男に両の手を差し出す。すると
男は手錠をとりだしアイの細い手首にカチャリとかけた。
「だ、誰?誰なのアイボン・・・・・・・ま、まさか・・・・・」
「ごめんね。のん。私バカだった・・・・・のんがいるのに。」
「な、なにを・・・・・なにをしたのアイボン・・・・・・・・ま、まさか・・・・・か、彼を・・・・・・・・」
「ごめんのん、それは言えないの・・・・・・・・刑事さん、もういいです。ここから連れ出して」
ノゾミは男にすがりつき「教えてください!!アイは・・・・アイは何をしたの!?」

刑事は言った
「食い逃げだよ」